カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

私の本棚71  幕末を読む

 吉村昭著『生麦事件 上・下』(新潮文庫)を読み終えました。薩摩藩主の父、島津久光公が江戸から薩摩へ帰る途中に起きた英国人殺傷事件ですが、この事件そのものは小さくとも、これが江戸幕府崩壊に繋がる端緒になったことで、日本史ではもっと大きく取り上げてもいいかと思います。
 それまで攘夷を強硬に叫んでいた薩摩、長州の雄藩が、薩英戦争、下関戦争で英国、また四国連合艦隊に敗れ、講和の調印後一転して親英欧になり、藩論を正反対に変えてしまったのは、まさに太平洋戦争の戦後処理と重なる部分があると思うからです。発端は、単純な偶発的な事件です。それが外交交渉上どんどん大きくなり、戦争は裂けられず、圧倒的な武力の差で日本は清国と同じ植民地への運命をたどらねばならない時勢となっていたのです。負け戦なのに植民地にもならず、本来なら薩摩、長州が支払うべき莫大な賠償金を幕府が肩代わりして支払ったにもかかわらず、結局倒れてしまいます。
  絶対的な権力を持った政権が、いとも簡単に倒れてしまった現実は直近の現代でも見ていますが、近隣にある倒れてほしい政権もそうならないでしょうか。

生麦事件〈上〉 (新潮文庫)

吉村 昭 / 新潮社


  幕末を描いたもう一冊は、シュリーマン著『旅行記 清国・日本』石井和子訳(講談社学術文庫)。シュリーマンとは、あのトロイの遺跡を発掘したシュリーマンです。氏がトロイの遺跡を発掘する以前、ロシアで藍色染料のインジゴの貿易で大富豪となり、43歳の時世界一周を試みた際にわが国を訪れていたなんて、全然知りませんでした。それも、明治となる前1865年の夏です。
日本を訪れた知人達から、そのすばらしさを何度も聞かされた著者は、日本へ行くことを永年夢見ていました。日本の前に滞在した清国では、あまりの不潔さと、怠惰さ。そして狡猾な人々ばかり見てきた著者は、日本に上陸するともうワクワクして、梅雨明け時の豪雨もなんのその。攘夷真っ只中の日本(横浜・江戸・八王子)を時を惜しんで精力的に見て回っています。そして何より興がわくのは、この著者の眼に映った純粋で愛すべき私達の祖先の姿です。貧しいながらも、清潔で簡素な生活をおくり、礼儀正しく親切。高慢でなく不遜でもない。ただ外国人の著者には興味津々です。ひと間しかなくても、家族団らんで食事をし、食事が終わるとくつろぎの場となり、さらに寝る部屋になる。西欧は、テーブルやイス、ベッド、たんす等、これらがなければどんなに若者の結婚が楽になるだろうと語っています。銭湯は混浴。西洋では娼婦は見下げた人なのに、この国では神社にその絵姿が飾られ、結婚も出来、尊敬に値する人として、わが国の性風俗にも驚いています。護衛の役人はチップを取らず、もし強引に渡そうものなら腹を切ってしまいかねない。たかだか150年前のわが祖先の振る舞いを、著者はこの上なく素晴らしい人々の印象を持ってアメリカへ行きます。我が国が清潔でどこも清掃が行き届いており、勤勉で礼儀正しい人々の国だ、とは信長に面会したルイス・フロイスも書いておりますが、たかだか150年前のわが祖先が持っていた美徳が、現在のわれわれは失ってしまったものばかりのような気がいたします。

シュリーマン旅行記 清国・日本 (講談社学術文庫 (1325))

ハインリッヒ・シュリーマン / 講談社


[PR]
by jf1ebpkh | 2014-03-19 22:27 | | Comments(0)